133号編集後記

  • 2015.06.20 Saturday
  • 14:44
JUGEMテーマ:コラム

133編集室から 本間健彦

☆平井玄さんの新連載「戯志群衆伝・大杉栄を生き直す」が本号から始まった。この物語の主人公・大杉栄の国家権力による虐殺事件は、歴史修正主義によってもけっして消し去ることのできない、日本近代史の許し難い汚点の一つだろう。従来、大杉栄には、社会主義者とかアナーキストといったレッテルが貼られてきたが、筆者の言によれば、非正規労働や時代の閉塞状況にも屈せずに生き抜いている、彼の周りに集う元気のいい若者たちのあいだでは、そんな狭い枠に囚われない「自由への遊撃」を果敢に挑んだ大杉像への評価が高まっているという。そこに今回平井玄さんが、この「戯志群衆伝・大杉栄を生き直す」という物語を構想し執筆する動機があるのだろう。新連載の物語を期待しよう。


☆ところで、平井玄さんは、本誌初登場なので簡単にプロフィールを紹介しておこう。一九五二年東京生まれ。実家は新宿二丁目の元遊郭内にあった洗濯屋さんで、仲間たちの間では「洗濯屋の玄ちゃん」の愛称で親しまれてきた。六〇年代末、都立新宿高校時代には高校全共闘運動に参加。自伝的エッセイでこんな文章を書いている。「一九六九年一〇月、新宿文化アートシアターでジャン=リュック・ゴダールの『ウイークエンド』を私は観た。高校二年の秋である。天啓といっていいだろう。(中略)あれ以来、私の『ウイークエンド』が終わらないのである」(著書『愛と憎しみ新宿』)。あの時代が平井玄さんの原点なのだろう。さまざまなムーブメントに関わりながら、音楽・思想・社会問題等幅広い領域を独自の視点と切れ味のいい文章で綴る論者(思想家)として近年頭角を現してきた。著書に『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』『路上のマテリアリズム』『引き裂かれた声』などがある。


☆ちょっと予告篇を見ておくと、大杉栄は新宿柏木の路上で拉致され、九段下にあった憲兵隊本部へ護送されて、その日のうちに虐殺されるというのが史実なのだが、「戯志群衆伝」においては、四谷三丁目付近で護送車が転覆事故を起こしたため、大杉は四谷鮫ヶ橋貧民窟に逃げ込むという物語が構想されている。新宿通りを右折して円通寺坂を蛇行して下り、JR信濃町駅方面に抜ける谷間のような地形の街区が、かつて東京一の貧民窟だったと伝えられる鮫ヶ橋地区なのだけれど、現在は町名が変わっているしスラム街も存在しない。けれどもこの谷底の街をロケハンしていると、貧民窟の残像がブローアップしてくる。町名を変えても、地形や歴史を消滅させてしまうことはできないのではないか。そんな所感を抱く私の脳裡から、一握りの繁栄を謳歌する坂の上の企業や人びとの足下、谷底で首都東京のみならず全国各地に鮫ヶ橋化・山谷化現象が生じつつあるのではないかという妄想を消去することができない。


☆この師走に、衆議院を解散し選挙だという。毎度のことだけれど、どの党の誰に一票を投じればよいのか、途方に暮れる。だが、匙を投げて棄権してしまえば、われら草莽の痛みなどどこ吹く風とばかりに暴走する政権にブレーキをかけることができない。沖縄知事選の朗報にあやかるよう祈念し、投票所へ足を運び一票を投じることにしよう。
 

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